2023年7月、しばらく体調不良で活動を休止していたタレントの壇蜜さんが活動を再開した。
2013年辺りに特徴的な外見と言動で一世を風靡した壇蜜さんだが、
近年はその知性や内面の深さに焦点を当てた仕事の方が増えていたように思える。
壇蜜さんは文筆業にも力を入れていて、私も何冊か本を所有している。
その中でもこれは壇蜜さんの本領発揮だと確信した作品がある。
それが今回ご紹介する「死とエロスの旅」だ。
この本は壇蜜さん自身が執筆した他の作品と少し毛色が違い、
NHK BSプレミアムで放送された旅行記をまとめたものになる。
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以下、書籍紹介文引用
特異な存在感で、タレントに留まらない異彩を放つ壇蜜氏。
足かけ6年をかけて、ネパール、メキシコ、タイを訪れ、
ヒンドゥー教、キリスト教、仏教と宗教的背景の異なる各地の死生観をめぐった記録です。
エンバーマー(遺体衛生保全士)の資格を持つ壇蜜氏が、生と死のはざまに思いを馳せながら、
多数の写真、旅の途上で綴る直筆の文章やイラストなどで構成され、
表裏一体の「死とエロス」を掘り下げていきます。
NHK BSプレミアムで放送され好評だった番組の書籍化。
<第1章> ネパール
聖なる都・カトマンズ。
血を望むカーリー女神、ヒンドゥー教の寺院、かつての王宮での女神・クマリ、
歓喜仏・ヤブユムの寺院で乞う性愛をこえた悟りの教え、占星術チノ他。
<第2章> メキシコ
太陽と情熱の国・メキシコ。
「死者」の祭り、アステカの神殿の上に立つ大聖堂、
「生贄」の風習、性別を超えた”ムシェ“の存在、風を操るシャーマン、褐色のマリア他。
<第3章> タイ
生と死の端境・バンコク。
地獄を具現化したテーマパーク、葬儀で出会う男女、
暮らしに溶け込む性的マイノリティーの人々、エイズ患者を無償で受け入れる施設他。
【著者プロフィール/壇蜜(だん みつ)】
本名 齋藤支靜加。1980年秋田県生まれ。東京都出身。
様々な職場を経て、2010年にグラビアアイドルとしてデビュー。
女優として多数のテレビや映画に出演し、13年、映画『甘い鞭』で日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。
著書に『壇蜜ダイアリー』(文藝春秋)『たべたいの』(新潮新書)『男と女の理不尽な愉しみ』(集英社新書)など。
日本舞踊師範、遺体衛生保全士の資格、調理師、大型自動二輪の免許所持者。
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最初は印象的なタイトルにひかれて何気なく手に取った本だが、
読み進めていくうちに本の世界に没頭してしまった。
宗教や文化を色濃く反映したその土地の歴史。
人間である以上切っても切れない性と死を、壇蜜さんの感性で受け止めていく旅は
自分も追体験しているようで一種のトランス状態に陥る。
この日常にいながら異世界にトリップできる感覚は、私が読書が好きな一番の理由だ。
トリップできる本とできない本があるが、
この「死とエロスの旅」は私の中のトリップ本として一位・二位を争う名著だ。
気軽に読もうとすると、一般的には受け入れがたい表現も多く
気持ちが悪くなる人もいるかもしれない。
しかし壇蜜さん以外の人にはきっとつとまらないであろうと思わせる行程が、
読んでいる者に満足感を与える。
清濁併せ吞むという言葉があるが、言うは易し・行うは難しの代表例だと思う。
「死とエロスの旅」にはこのカオスとも呼べる感覚が、ぎゅうぎゅうに詰め込まれている。
読む人を選ぶ本であることは間違いない。
しかし没入できる人には、深く刺さる本だと約束する。
うっかり深夜に読むとそのまま朝日を迎えそうになるので、休みの日の前に読むといい。
私にとってはかなり印象に残る一冊となった。